Skip to main content

船員交代危機8ヶ月目突入!ITFとマーロウ社の闘い

06 Nov 2020

 2月から船に乗り組んでいるある見習いエンジニアは、生理用ナプキンがないことに屈辱を感じており、家に帰れないという悩みも益々深まっている。別のある船員は、6か月前に契約が終了した際に、なぜ帰国できなかったのかを理解できずにいる。交代して新たに船に乗り組む予定の船員の場合は、これまで勤務してきた船員が下船できないために上船することができない。

 これが船員交代危機の現実だ。現在、40万人の船員が下船できない悲劇に見舞われているという統計があり、各国政府や国際機関が声明を出したり、約束をしたりしている裏側で、船員はこの危機を生きなければならないという現実に日々直面している。

  乗組員が家に帰ってリフレッシュできるよう、配乗代理店や船主、労働組合が奔走しているのはまさにこの現実の世界であり、そうした努力が極めて重要なのだ。

  リバプールを拠点に活動するITFインスペクターのトミー・モロイは、船員の帰国を支援するため、ありとあらゆる関係者と協力してきた。

  モロイは、船員の配乗管理会社のマーロウ・ナビゲーション社と協力し、同社の管理下にある複数の船に乗り組む船員の帰国を支援している。

 モロイITFインスペクターとマーロウ・ナビゲーション社の最近の協力事例を以下で紹介する。

 

デンサ・レオパード号

 9月初旬、ノーチラス組合が契約期間を6か月超過してMVデンサ・レオパード号に乗り組んでいたロシア人のセカンド・エンジニアの事例を報告してきた。この船員はマーロウ・ナビゲーションの努力にもかかわらず、船から降りることができなかった。そこで、モロイITFインスペクターは本件を旗国のマルタに提起した。

 「マルタ運輸省は、本国送還を要求する船員からの書面による声明を出すよう求めてきたが、船員の声明を提供してもマルタ運輸省から返答はなかった」とモロイは説明する。「同船がスリランカに戻った際、マーロウ社は交代要員のスリランカ人船員を手配していたが、スリランカの規則に従い、交代の船員の検査結果を待ち、上船許可が出るまで2日が必要だった。しかし、用船者はこれを待つことを許さず、船を紅海に向けて走らせるよう命じた。紅海で交代の船員数名が乗り組む計画だというのだ。

 「同船がスリランカを出港する前に、ITFはスリランカのポートステート・コントロールに同船を査察し、船員の福利と有効な雇用契約に関するスリランカの国内規則を同船が遵守しているか調べるよう求めたが、拒否された」

 一方、マーロウ社は交代の船員がいなくても、セカンド・エンジニアをスリランカで下船させるよう求めた。マルタはこのことが問題視されることは予測していなかった。ILO海上労働条約(MLC)で保障される船員の権利として、このセカンド・エンジニアは雇用契約が終了した時点で業務をストップし、船には単に乗客として乗船していたからだ。

 「旗国のマルタに連絡が入り、ITFのアドバイスに従って、このセカンド・エンジニアはいずれにせよ既に仕事をしていないのだから、交代船員がいなくても、スリランカで下船させて構わないかと尋ねられていたことをITFは知った。別のセカンド・エンジニアが上船待機している次の港までの間だけ、MLCの安全な配乗に関する条項の適用を免除して欲しいとの要請もマルタになされていたが、マルタ運輸省は、セカンド・エンジニアが例え働いていなくても、彼は船員免許を所持して船に乗っているのであり、安全な配乗要件は満たされているとして、これを拒否したという話が広まっていた。私は、この噂の真相を突き止めるため、マルタ運輸省に連絡を取り、説明を求めたが、またしても返答がなかった」

 「とにかく、船員がもはや働いていないのであれば、安全な配乗要件は満たされていないのだ」とモロイは述べる。「しかし、マルタは、船員と船員の免許が船内にある限り、安全な配乗要件は満たされていると主張している。そのため、この船員は船内に留まることを強制され、マルタ当局は彼が船の安全に貢献していると見せかけ、規制当局としてチェック項目に恣意的に確認済みのマークを入れてよしとしていたのだ。

 「これは、旗国によるあきれ果てた、潜在的に致命的になり得る対応といえる。マルタは船員の帰国する権利を否定し、さらに、自国の旗を掲げる船が実態よりも安全であると見せかけていたのだ。おそらく疲労困憊していたために、船員が既に仕事をストップし、乗客として休んでいるのにも関わらず、この船員が船の安全に貢献しているなどとなぜ主張することができるのだろうか?ITFが今後数週間のうちに、マルタに対してこの問題を再度提起してくれると信じている」

 スリランカからも、マルタからも支援を得られず、モロイITFインスペクターはヨルダンに注意の矛先を向けた。

 モロイは、デンサ・レオパード号の船主のトルコのマリンサ・デニズシリック(MarinsaDenizcilik)社に、同社は当初、ヨルダンで船員交代を行う計画を発表していたため、ヨルダンの国境が同船に対して閉ざされたと伝えた。モロイはまた、その結果、ヨルダン当局がおそらく同船を拘留するだろうと述べた。船主が交代の船員をヨルダンに連れてこられる可能性が低いからだ。

 モロイのこの警告を受け、船主はデンサ・レオパード号を2日間、利用できる船舶から外し、エジプトに寄港させ、やっと船員を下船させることができるようになった。こうして、ロシア人のセカンド・エンジニアは労働契約が終了してからほぼ7か月後の929日に帰宅することができた。

 

デンサ・シール号

 マーロウ・ナビゲーション社はまた、グアテマラのプエルト・ケツァル港に停泊中のMVデンサ・シール号についてもITFに支援して欲しいとモロイに依頼してきた。同船の18名の乗組員は、1014か月間乗船しており、これ以上勤務を続けることを拒否していた。17人の交代の船員が同船に上船するためにメキシコから移動していたが、彼らの到着と同時にグアテマラ国境が閉鎖されてしまったのだ。そのため、交代の船員達がメキシコとグアテマラ両国の国境検問所近くのホテルで足止めを食らうことになった。さらに、メキシコ当局は、勤務を終えた船員がメキシコ国内を通過するためのビザの発給を拒否した。

 チリを拠点とするITFインスペクター兼、ITFの中南米・カリブ海地域のネットワークコーディネーターのホワン・ビラロン・ジョーンズは、次のように説明した。

 「交代の船員を上船させるためには、これまで勤務してきた船員を家に帰す必要があるため、ITFとマーロウ・ナビゲーション社はそのために必要な関係者全員に連絡を取った。グアテマラのフィリピン大使館やウクライナ大使館、地元の代理店、PIクラブの代表者、メキシコのITFインスペクターにも連絡を取った。メキシコのインスペクターがメキシコ外務省に連絡を取ってくれた。

 「各大使館とグアテマラ当局は最終的には協力し、国境が正式に開かれる前に、交代の船員が国内を通過することを大統領が許可するに至った。916日、交代要員が遂にプエルト・ケツァルに到着し、上船できた。こうして、元々乗り組んでいた船員の大部分がメキシコ経由で帰国できるようになった。米国ビザの有効期限が切れているために、メキシコの通過が許可されない数名の乗組員の支援もして、最終的に、ウクライナ人船員はエルサルバドルからマドリード経由で1010日にウクライナに、フィリピン人船員は1011日にマニラに、それぞれ到着したとビラロン・ジョーンズITFインスペクターは語った。

 

ヤサ・ゴールデン・ダーダネルス号

 マーロウ・ナビゲーションは、乗船期間が1年を超えているヤサ・ゴールデン・ダーダネルス号の乗組員の支援に乗り出していた。本船はヒューストン(米国)に停泊中で、交代の乗組員が既に乗船していたが、フィリピン人乗組員2人の米国ビザが失効していたため、米国の税関・国境取締局(CBP)が2人の下船を許可しなかった。

 モロイはヒューストンのシュエ・トゥン・アウンITFインスペクターに連絡を取った。アウンは次のように説明した。「24人が乗船しているが、安全装具は22人分しかないことをCBPに説明した。本船は当面の間、米国のメキシコ湾沿いを航行するため、契約満了の2人は官僚主義の犠牲となり、船内に拘束されることになるとCBPに警告したものの、彼らの態度は変わらなかった」

 「マーロウ・ナビゲーションは、家族のために生活費を稼ぐことを期待していた交代船員2名を帰国させるしかなかった。また、帰国を心待ちにしていた乗組員2名の乗船を継続させるしかなかった。これがどれほど辛いことだったか想像してみてほしい」とアウンは続けた。

 モロイによると、CBPが船員の状況を顧みないことが船員交代の実現に向けて努力する側にとっての大きなフラストレーションとなっている。モロイはマーロウ・ナビゲーションとは関係のない別の事例を挙げた。若いパナマ人カデット(研修生)が101日にアウンに連絡を取り、帰国の支援を求めてきた。米国沿岸を航行する、ライタリング(洋上での貨物積み替え)用タンカーに見習い機関士として2月20日から乗船していたが、ライタリングの許可は既に失効していた。彼女は、会社は何も助けてくれないと感じていた。「生理用ナプキンがなく、非常に困っている。屈辱的な思いを強いられ、精神的に参ってしまいそうだ」と書いてきた。

 アウンが船社に連絡すると、彼女を下船させるためにCBPを説得し続けており、パナマ海事局にも支援を要請したとの答えが返ってきた。101日、CBPから船社に連絡が入り、「パナマ領事館が関与していることを考慮し、船員のフライトをキャンセルして下さい。ヒューストンのCBPの決定が出るまで12週間かかるでしょう」と言われたという。

 CBPがアウンの嘆願に応じることはなかった。カデットは今も船内に残されている。

 

次のステップは?

 トミー・モロイは、船員交代を促進する次のステップについて、解決のカギは依然として政府が握っているとして、次のように語った。

 「コロナ禍を言い訳にしているのかもしれないが、コロナ禍が始まってからもう8か月が経過している。各国政府は船員交代を実現させる方法を見出す必要がある」

 「一部の政府、官僚主義、迂回を許さない用船者、一部の旗国、一部の船主、現地の役人、フライトの不足等、さまざまな要因が船員交代を阻止している。これらが一体となって、船員の本国送還や交代を困難にしている」

 「ITFは、船員交代の可能な限りの機会を捉えようとしない船社を許さない。海運業界も船員交代の促進に一層の努力をすべきだ。ITFは船員の入国制限の除外やフライトの増便等を強く訴えている」

 

ビザ問題

 ヤサ・ゴールデン・ダーダネルス号の乗組員が経験したように、当局がビザに関して厳格な姿勢を崩さないことは、コロナ禍においてよく見られることだとモロイは指摘する。

 「フライトの便数が限られているため、帰国便まで数日間待たなければならないことは珍しくない。しかし、その帰国日までの出国ビザすら発行したがらない入国管理官もいる。彼らは事実上、船員交代を拒否している」

 「ITFは、船員の安全な乗下船を確保するために、船員をキーワーカー(市民サービスに不可欠な労働者)と認めるよう、各国政府に訴えている。しかし、多くの国が、自分たちのために貨物を運んでくれる船員に背を向けている。そして、国際義務を無視している」

 

用船者の役割

 用船者は、輸出入業者や多国籍企業等の貨物所有者の代わりに船を予約する代理人だ。航路(迂回や離脱を含む)に関して大きな発言権を持っている。

 今日、多くの用船者が船主との契約に「船員交代禁止条項」を入れている。これは、船員の乗船期間がどれだけになろうと、船員交代が可能な近くの港に寄港するための航路離脱ができないことを意味する。

 ある船舶管理会社は、コロナ禍での船員交代問題に対応したボルチック国際海運協議会(BIMCO)の定期用船契約のモデル条項を拒否する用船者もおり、実際、用船期間中に船員交代を計画している船を拒否しているとモロイに告げた。このような行為は、疲れ果てた外航船員の心身と危機克服の希望を打ち砕くものである。

 モロイは語る。「このようなことは、乗組員の状況をさらに悪化させるだけだ。船内で自殺を図った船員に対応したことはまだないが、十分起こり得ることだ」

 「自殺が頻繁に発生していないことがむしろ不思議なくらいだ。人間を長い間、狭いスペースに閉じ込めておけば、精神が蝕まれ、希望が奪われる。人間は希望を奪われると、良からぬ事態を引き起こす」

 「最悪なのは、これらの船員が何も悪いことをしていないという点だ。 彼らは世界に物資を供給し続けるために、働いてきただけだ。 彼らの献身・犠牲を各国政府は完全に侮辱している」