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囚われの船員、ブラジルから帰宅

21 Aug 2020

賃金も支払われず、飢餓と闘いながら、8か月間放置された末、ウクライナとモンテネグロ出身の14名の船員たちは、ITFの支援を受け、ブラジルのサン・セバスチャン湾から遥か離れた家族のもとに遂に戻ることができた。さらに、計261,009米ドルに上る未払い賃金も受け取ることができた。

7月、ブラジルでITFインスペクターを務めるレニアルド・デ・フレイタスは この乗組員らに連絡し、未払い賃金を回収すべく、政府や当局と協力していた。

スラカン号の乗組員の苦難と試練の内幕についてここで共有したい。

まず、4月にモロッコのサルバドーからスラカン号に乗り組むチーフ・オフィサーのニキータ・パブレンコ*がデ・フレイタスに支援を求めてきた。

「今日(420日)、船が錨泊する予定だ」とパブレンコがメールしてきた。「乗組員5名がこの半年間、給与を受け取っていないし、仕事を続けたくないと言っている。全員の雇用契約期間が終了している。ITFの支援が必要だ」

そこで、デ・フレイタスは船に何らかの欠陥がないか船員に尋ねた。何か欠陥があれば、国内法やILO海上労働条約(MLC)のもと、船をブラジルの港に拘留することができるからだ。パブレンコはクレーンやハッチカバー、ナビゲーション・ブリッジの器具の問題を伝えた。

この34歳の一般貨物船は、修理と給油のためにサルバドール港で1か月間停滞していた。食糧品が少なくなっていることと、家族に給与が届けられないことで、乗組員は不安を募らせていた。チーフ・オフィサーのパブレンコはストレスから来る片頭痛に悩まされていた。

「頭痛は日に日にひどくなって、常に薬を飲んでいました」とパブレンコは振り返る。

パナマ籍のFOC船、スラカン号は次の目的地の南へ向かって出航した。

「船の位置を常に監視している」とデ・フレイタスは乗組員に伝えた。「サン・セバスチャンの港湾局に連絡する準備を進めている。既にクラウディオ・タリファ(ブラジルの労働査察官)、船主、港湾局に連絡し、

「スラカン号に早急に食糧品を提供するよう要請した。

61日にスラカン号がサン・セバスチャン港に到着した際、デ・フレイタスは4時間車を走らせて、乗組員に会いに行った。

パブレンコは船長から何も話すなと脅されていると話してくれた。船長は当局に連絡したことで乗組員を責めていた。

船長はクロアチアのアドリア海に浮かぶ島の名前にちなんで命名されたスラカン号に乗り組む2名のクロアチア人の一人だが、同船の所有会社もクロアチアの企業だった。

「船長と言い合いになり、部屋に閉じこもったとパブレンコが話してくれた」とデ・フレイタスは言う。 

デ・フレイタスは船長から今後、挑発されたり、嫌がらせを受けても、冷静に対応するようパブレンコに助言した。また、賃金を貰わずに船を下りないようにと伝えた。

「そうしないと、全乗組員が全てを失うことになる」とデ・フレイタスはメールで船員たちに伝えた。

乗組員らは行動を起こす決意を明確に示した。

「私たちは家族を愚弄されることにうんざりしています」とある乗組員が書いてきた。「親戚の多くが病院に行かなくてはならないし、子供に食べ物も与えてあげられない」 

「私たちの権利が侵害されていることを他に誰に言うべですか?船員としての権利だけでなく人間としての権利も侵害されています」とこの乗組員はウクライナの大統領に訴えた。

201911月以来、ブラジルはILO海上労働条約(MLC)の批准国だが、政府当局はこの問題を機にMLC実施に動くことを決めた。

ブラジル海軍がスラカン号の燃料補給を支援した。労働、司法、社会保障、警察、海軍関係の省庁の高官から成るタスクフォースも立ち上がった。

スラカン号の船主の代表者に616日という期限が伝えられた。  この日を過ぎた時点で、同船は未払い賃金や未払い手当の担保として拘留された。

そこで、デ・フレイタスはブラジル政府検察とビデオ会議を開催して協力し、スラカン号の船主、管理者、用船主に対する訴訟を起こす支援をした。  

ITFMLCを根拠に、船員の遺棄、虐待、劣悪な船舶管理を理由とする提訴の準備を進めた。  

スラカン号に乗り組む船員たちが4か月から長い場合は11か月も賃金を支払われていないことを知った労働査察官のクラウディオ・タリファは、ウクライナの領事に重大な人権と労働権の侵害が起きていることを報告した。前の契約から給与を受け取っていない船員も何人かいたとタリファは語る。

「船員には、賃金以外の方法で自身や扶養家族が必要とする必需品を提供する術はない」とタリファは報告した。「賃金を支払ってもらえなければ、船員は無防備で脆弱になる。何の選択肢も、下船する手だても、行動を起こす手だてもない」

スラカン号に乗り組む多数の船員の出身国においても、ITFはこの問題を提起した。ITFインスペクターのナタリヤ・イェフリメンコは次のように述べた。

「会社が義務を怠っており、そのことが船員の賃金に依存する母国にいる船員の家族に大きな悪影響をもたらしている」

スラカン号の運航会社はオーシャン・ワイルド有限会社で、新型コロナウィルス感染症による財政難を主張してきた。

コロナ禍は世界中の船員や、一部航路に大きく影響はしているものの、大部分の貨物船は依然として運航を続けている。船員交代危機の問題で、船員は船への上船や下船ができなくなっているが、この問題は船会社や商品の供給面には影響していない。いずれにしても、スラカン号の船員は新型コロナウィルス感染症が広がる以前から賃金を支払われていない。

デ・フレイタスは、コロナ禍を理由に会社が船員の賃金を支払わないことを「大目に見る」ことにITFは慎重だと伝えた。海上労働条約(MLC)では、仮に船主が賃金を支払えない場合、用船主など他の関係者が支払い義務を負うことになる。

スラカン号に乗り組む外国人船員を本国送還させ、未払い賃金を回収するための解決法を見出すべく、ブラジル当局は休みなく奔走した。

そして、74日に状況が進展した。地元ビジネスマンのアグリビジネスCBAエクスポルタカオ・デ・プロダクトス・アグリコロス有限会社のホヤオ・カルロス・カミーシャ・ノバ・Jrが欧州に大豆を輸送するためにスラカン号を再用船する契約をシ-チョイス社と結んだのだ。これにより、前払金の30万米ドルが会社に入ることになったが、これは乗組員の未払い賃金を支払い、本国送還させても余りある額だった。

カミーシャ・ノバ・Jrと保証人としてシーチョイス社が行動調整条件合意書に署名した。シーチョイス社はその後、地元ブラジルの船員を雇うよう手配し、スラカン号を引き継いだ。これにより、船員交代が可能になり、同船にもともと乗り組んでいたウクライナ人船員とモンテネグロ人船員はそれぞれ帰国することができた。

修繕の後、スラカン号の拘留は解かれた。こうして、スラカン号は再び運航を開始し、サン・セバスチャンから大西洋を渡り、欧州まで行くことになった。

船員たちはそれぞれ未払い賃金を全額受け取り、帰りの航空券代金、帰宅までの交通費、医療費、宿泊費、食費も支給された。  さらに、帰国までに必要なこまごまとした支払い用に各船員が現金400米ドルも受け取った。

モンテネグロ出身の訓練生と、ストレスに悩んでいた3名の船員がまず718日に帰国した。残る12名は726日と30日にそれぞれ帰国できた。  

セカンド・オフィサーと船長は次の寄港地で下船する予定だ。

ウクライナに到着するや否や、チーフ・オフィサーのパブレンコはブラジルのデ・フレイタスITFインスペクターに連絡してきた。「大変お世話になりました。多大なるご尽力に感謝します。乗組員は全員、賃金を受け取りました」

スラカン号の乗組員らは帰宅した。賃金も受け取って。

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*は偽名